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「血液型人間学批判」の朱子学的理解《続》


1990年代の日本 (PHP文庫)

1990年代の日本 (PHP文庫)

  • 作者: 山本 七平
  • 出版社/メーカー: PHP研究所
  • 発売日: 1987/10
  • メディア: 文庫

以前のエントリー、「血液型人間学批判」の朱子学的理解森博嗣さん 科学的とはどういう意味か(幻冬舎新書)の続きです。

突然ですが、日本人で一番最初にラーメンを食べた人は、水戸黄門(徳川光圀)だと言われていることを知っていますか?
水戸市には、このエピソードにちなんで「水戸藩ラーメン」があるらしいです(笑)。

ではなぜ、中国発祥のラーメンが江戸時代の日本に初上陸した場所が、国際的な長崎や、江戸幕府がある江戸ではなくて、地方都市の水戸なのでしょう。

水戸徳川家にラーメンを伝えたのは、朱舜水という中国人(明人)だとされています。朱舜水は、朱子学の元祖である朱熹の親戚で、当然ながら朱子学の講義も行いました。徳川家康の命もあり、水戸家では朱子学が盛んだったのです。
というのは、江戸幕府を開いた徳川家康は、徳川家支配の正当性を担保するため、“官学”として「朱子学」を採用したからです。
#ちなみに、朱子学=新儒教ができたのは、中国の南宋時代です。

ここまで読んできて、ラーメンや朱子学が、なぜ血液型と関係あるんだと疑問に思う人も多いでしょう。
実は大ありなのです(笑)。
では、本題に行きます。

こう言うと驚く人がほとんどでしょうが、血液型を批判・否定する人は、心理学が「科学だから正しい」という朱子学的な“神話”を信じているのです!
そして、この伝統は明治以後も消えることはなく、現在までずっと続いています。
そんなのは、あまりにも突飛で訳の分からない説だと思うかもしれませんが、きちんとした根拠もあります。
私にだまされたと思って、最後まで読んでみてください。

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さて、朱子学のテキストとして一番ポピュラーなのは『近思録』です。
現在ではすっかり忘れ去られていますが、江戸時代の知識人なら読んでいない人はいないと言っていいほど有名でした。
近思録にある朱子学の特筆すべき特徴は、「権威主義的」であることです。
なにしろ、朱子学は南宋が元に滅ぼされたときにできた学問なので、元に征服されたという現実を無視して、中国人が絶対的に正しいというイデオロギーに基づいています。
だから、「科学」(=朱子学)は必ず正しくなければならないのです。
科学が、正しいこと(間違っていないこと)が反証されていない仮説に過ぎないことは認められませんし、「血液型」と「心理学」を相対的にとらえて、比較・研究するなんてこともできません。

この点は、山本七平さんの『1990年代の日本』に詳しい論考があるので、かいつまんで紹介しましょう。

彼は、朱子学的思考の典型として、明治人の加藤弘之を挙げています。
加藤は、1877(明治10)年に東京大学(後に組織が改正され帝国大学となった)の初代綜理(総長)、いわば「東大をつくった」人で、まさに明治のインテリ中のインテリ、アカデミック界のエスタブリッシュメントです。

加藤弘之が強く主張した「科学」は『近思録』的であり、これは一見科学的な「神話」に過ぎない。
私はある官学的社会科学者が、「マルクス主義は正しい、なぜならそれは科学であるから」と言ったとき、反射的に加藤弘之を思い出し、「なるほど、この系統は生きているのだな」と思った。
加藤弘之の『吾国体と基督教』は、科学、科学を連呼しつつ、最終的結論は「天皇制が絶対であることの科学的証明」に終わっているのである。従って「科学」だといわれば沈黙し、同時にそれへの反発としての「反科学的自然順応主義」が出てくる。これもまた日本のおける最も強固な伝統だが、いれずも「科学」には関係あるまい。

次に、問題の加藤弘之『吾国体と基督教』から引用します。
これも、山本七平さんの『1990年代の日本』からの引用で、字句は読みやすいように現代仮名遣いに直してあります。

諸君!余はキリスト教を以てわが国体に大害あるものと考えているから、その理由を科学的に証明してみようと思うのであるが、しかし余は独りキリスト教に限らず、およそ宗教といえば、宗派の如何を問わず全く好まぬのである。
それはなぜかと言うに、いかなる宗教といえどもことごとく吾人に迷信を与えるもので、大いに知識進歩の妨害をなすからである。
(中略)
迷信と言うも全く知識の不足から余儀なく生ずる迷信ならば致し方がないが、およそ宗教の迷信と言うとその始め多少知識のある者らが故意に迷信を造り出して、それを拡めたのであるからその害は頗(すこぶ)る大なるものである。
仏教でもキリスト教でもその他いかなる宗教でも同様であるが、その迷信に陥る者が皆無知文盲の者のみならば、まだしもであるけれども中には多少知識ある者迄も共に釣り込まれるのみならず、また哲学者科学者さえ往々この迷信の災厄に罹るのであるから実に歎かわしい次第である。

この部分を、『近思録』の第十三巻「異端之学」と比べてみると、言っている内容がほとんど瓜二つなことに驚かされます。

参考サイト
近思録・・・朱子学をはじめて学ぶ人のための入門書
第十三巻 異端之学~聖人の教えに反した学問

山本七平さんはこうも言っています。

こういう発想をすれば宗教は排除すべき迷信だから、「科学技術と宗教はいかなる関係にあるか」、などという問題意識さえありえない。

論語を読んだ人はおわかりでしょうが、儒教には「怪力乱心を語らず」という有名な言葉があります。
心理学は「朱子学=科学」なのだから、これと対立するとされる血液型は「迷信」、すなわち「怪力乱心」です。だから、何がなんでも排除しなければならず、「血液型と心理学との関係」を比較・研究するなんてことは、絶対にやってはいけない“タブー”なのです。

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